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残暑お見舞い

相変わらず残暑の厳しい毎日です。でもある日、あんなにけたたましく鳴きわめいていたセミの声が聞こえなくなっていることに気づきました。地中で長い年月を過ごした後、地上に出て7日間ともいわれる夏の日々を生き切って、その短い生涯を終えたのだなと、少ししんみりします。諸行無常というものですね。


代わってたくさんのトンボを見かけるようになりました。今から30年近く前のちょうどこの季節、初めて泉中央の地に降り立った私の頭上には数えきれないくらいのトンボが飛び交っていました。それまで7年間住んでいた北カリフォルニアは涼しい気候のせいかセミもトンボもあまり目にすることがなく、目の前のトンボの大群は新しい地での生活の始まりを実感する景色でした。害虫を食べる益虫として、トンボは五穀豊穣のシンボルになっています。前にしか飛ぶことができず、後退しないことから縁起の良い「勝虫」として古くから武具や装束の飾りのデザインに用いられました。

正直なところ虫は全般的に苦手なのですが、トンボだけは特別です。前にしか進めないという意味では「時」も同様です。私たちはいつだって後戻りできない今を生きている。行く夏を惜しむように、この残暑も楽しみたいという気持ちになってきました。

                                   (遊佐重樹)



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